3階建て住宅の注意点とは?~階数による法規制と使いやすさ・間取りや工事費用への影響?

はじめに

こんにちは。

一級建築士のtakumiです。

一般的に戸建て住宅の「階数」は、2階建ての計画が多いものです。

しかし、二世帯住宅とする場合や、敷地が狭い場合には、必要な部屋数・床面積を確保するために3階建てを検討する必要があります。

「建ぺい率」という、敷地面積に対する建築面積(建物を真上から見た面積)の割合の制限値が、2階建てではオーバーしてしまう場合ですね。

例えば、建ぺい率が60%の場合、80㎡の敷地では建築面積は48㎡が限度となります。

単純にいうと、この場合の床面積は2階建てでは48×2階で98㎡ですが、3階建てでは48×3階では144㎡の床面積が可能になります。

3階建ての住宅は、2階建てと比べて使い勝手や構造的にも色々と違いが現れますので、急に難易度が高くなるものです。

縦に重ねて長くなる分、動線・使い方もよく考えなければいけませんし、建築費用や法規制も認識しておかなければなりません。

特に、建築基準法の規制では、2階と3階では大きな違いがあり、3階になると急に厳しくなります。

3階建てでは厳しい法規定がかかってきますので、設計士はもちろん、施主さんもある程度、理解している必要があります。

動線や使いやすさを考えて間取り計画を

3階建てでは、使い勝手の上で影響が大きいが「動線計画」です。

2階建てでは主に、1階がLDKや浴室といった共有スペースで、2階がプライベートスペースとなることが多いためですね。

家事動線でにおいては、一般的には主に共有スペースで構成される1階での横の動線を考えれば良いことになります。

しかし、3階建てとなると1階に洗面・浴室、2階にLDKといった共有スペースを配置する場合も多く、家事動線も1階⇔2階の縦の動線を考えなくてはなりません。

LDKや洗面・浴室をどこに配置するかがポイントとなってきますね。

1階にインナーガレージを配置したため、2階にLDKをとり、洗面やお風呂は1階というプランもあります。

家事の際に階段の昇り降りという縦の動線が多くなると使いづらい場合もあるので、スペースの配置はじっくり検討したいところです。

また、3階の居室から1階の洗面所や浴室を使うための昇り降りが必要にもなり、なかなか辛いものがありますよね。

できるだけ、LDKと洗面・浴室は同一階にしたいところです。

※【補足】2階にLDKを配置した場合は冷蔵庫の搬入も要注意です。階段の幅は、910mmグリットの場合、通常の有効幅は780mmとなり大きめの冷蔵庫だと厳しい場合があります。特に、階段の周り段部分は階段の天井高さも相まって通らないことがよくあります。入らない場合はユニック車などのクレーンで外からバルコニーに吊りこむことになりますが、これも電線やバルコニーの大きさ等によって不可能なこともあり最悪は冷蔵庫の買い替えが必要なこともあります。大型家電や家具の搬入も加味して設計するように設計者には指示しましょう。

3階建ては建築基準法の規制が厳しくなる

「3階建て」になると、建築基準法において審査項目が増えます。

法的にも2階建てと比べて急に厳しくなるのです。

確認申請では、木造の2階建てでは「特例」制度により審査が免除されているのに対して、3階建てでは特例が適用されないため、しっかりと審査が行われることになります。

特例についてはこちらをご覧下さい↓↓↓

※また、高さ13m、軒高9mを超えてしまうと確認申請の「適判」(構造計算適合性判定)という、構造計算をはじめとする構造基準を厳しく審査されることになります

※審査が厳格にされる(してもらえる)という点では、施主としては安心できるというメリットもあります。

では、3階建ての住宅になると、どのような審査項目が増えるのでしょう。

■形態制限

形態制限とは、建物の形や大きさ自体に制約がある事です。

3階建てになると当然ながら2階建てよりも高さが高くなるため、高さに関する法規制を考慮しなければなりません。

・高さ制限

第一種または第二種低層住居専用地域では10m(または12m)の高さ制限があります。

3階建てとなると、高さが高くなるため、最高高さ制限は注意が必要です。

・道路斜線、北側斜線

斜線による高さの規定です。どちらも3階建てだからかかるのではなく、高さが高くなるので注意が必要ということです。

道路斜線制限の解説図
道路斜線制限の解説図

・日影規制

建物の真北方向での日影に関する規制です。

北側の隣地に一定時間以上の影を落とさない様にする規定です。こちらも高さが高くなるため注意が必要な規定です。

ただし、日影規制は建物の横幅が広い方が不利となりますので、北側にピッタリと建物を寄せなければ、住宅の3階建てだから厳しくなるものではなく、影響が無いこともあります。

■構造基準

構造基準では、木造に関しては2階まででは耐力壁や接続金物などの簡易な計算で良かったものが、詳細な構造計算を行う必要が生じることから、難易度はグッと上がります。

階数が増え、高さが高くなるほど、構造規定は難しくなるものです。縦に高くなる分、不安定になりやすいですからね。

構造計算は「許容応力度計算法」という手法で計算します。

この計算では、高さが13m以下、軒高が9m以下であればルート1という比較的簡易な構造計算で済みますが、高さが13mまたは軒高が9mを超えるとルート2という構造の柔軟性も審査する少し高度な手法になり、先程の「適判」の審査も必要になるのです。

木造の場合は耐力壁をバランスよく配置する必要があります。

1階にガレージを配置する場合は1階の間口をガレージ入口が占領することになり、大きな開口部となることで耐力壁が配置できない【⇒構造的に不利】ことが多く、鉄骨造とすることも構造的な面で選択肢に入れることが多いですね。

また、3階建てとなることで地盤への影響も大きくなりますので、2階建てと比べると、杭や地盤改良の必要性も増します。

その分、工事費用も上がる可能性が高いということです。

■防火避難規定

3階建てになると、防火や避難に関する規定も増えて厳しくなります。

3階から避難することになりますので外部へ脱出する距離も時間も長くなることから、火災などの災害対策も厳しくなります。

防火の規定が厳しくなると、屋根や外壁、窓サッシの規制が厳しくなり、材料選択の自由度が少し減ってしまうということも生じます。

・排煙計算

火事で発生する有害な煙を、屋外に排出するための窓の設置が必要になります。

「排煙窓」と呼ばれますが、単なる窓とは少し違います。

これは各居室ごとに、天井から下方に80cmの範囲で床面積の1/50以上の面積の開口部が必要という規定です。

10㎡の居室なら、

10㎡ × 1/50 = 0.2㎡    ですね。

引き違い窓なら、片側の窓しか計算に入れられません。

火事の煙は早いスピードで上昇しますので、その煙を有効に排出できるようにというものです。

排煙計算の例

・非常用進入口

火事等の際に消防隊が救助や消火活動のために、道路から建物の中に進入するための窓の規定です。

住宅では3階の道路に面する側に「幅75cm以上、高さ120cm以上」の窓が必要ですが、消防隊が外から侵入できる構造でないといけません。

(※非常用進入口が必要なのは、道路に面する3階の窓だけです。ほかの窓には基準はかかりません。)

ですので、この窓には格子があってもいけません

注意が必要なのは、窓の高さが1.2mと少し高い窓になるので、天井高さが2.4mの部屋だと、天井スレスレに窓を付けないと、窓の下端が低くなってしまい、落下の危険性が高まってしまうことです。

※落下のリスクのある腰窓や、吹抜けの手すり壁、バルコニーの手すりの上端は、床から1m以上(推奨は1.1m以上)必要です。

特に、窓際にベッドを置く場合は落下防止措置が必要になってきます。↓↓↓

廿楽の3階建てで必要となる非常用進入口のイメージ図
非常用進入口のイメージ図

・直通階段

階段の位置にも規制がかかってきます。

1階~2階の階段と2階~3階の階段の位置が一緒の位置もしくは近い位置にないといけません。

停電した深夜の災害時や、火災時などの緊急を要する避難の際に、3階から一気に1階までスムーズに避難するための規定です。

本来は3階⇒1階までは「連続した階段」でないといけませんが、戸建て住宅では連続していなくても分かりやすくて避難に支障がない程度であれば「連続」していなくても可となる行政庁もあります。

これも、所管の行政庁に確認が必要な項目です。

住宅3階建ての直通階段の例の間取り図
直通階段の例

・準防火地域内(準耐火建築物)

商業系の地域では準防火地域の指定がされている事が多いのですが、準防火地域の指定があれば、

「燃えにくい」「延焼しにくい」構造

とする必要があり、準耐火建築物などの基準に適合させることになります。

⇒準耐火建築物についてはこちら

工事費用への影響は?

費用に関しては、3階建てだから一律に坪単価○円upというものではありません。

設計費用としては構造計算が必要になる分は高くなりますし、防火や避難の規定への対応分も少し高くなるかもしれません。

また、構造計算の費用として別途10~20万程度は必要となります。

工事費用としては、2階建てと比べて構造的な対応が必要な分、若干コストは上がりますが、坪単価として大きくはね上がるものではありません。

準耐火建築物への対応としてもサッシやガラスが少し高くなる程度で、構造への対応も心配するほどの費用にはなりません。

逆に、同じ延べ面積であれば2階建てと比べて、基礎や屋根の面積は小さくなることが多いので、屋根の材料分は安くなります。

ただし、3階建てとすることで「杭」や「地盤改良」が必要になることもあり、そのために100万円前後アップしてしまう可能性はあります。

3階建て計画の注意点・デメリットまとめ

では、3階建てを計画する際の注意点とデメリットをふり返ってみましょう。

・動線計画は縦の動線にも注意が必要。特に家事の動線は毎日のことなので、階の行き来が多くならないように。(特に、LDK⇔風呂・洗面)

高さの制限に引っかかることがあるため、注意が必要。

・設計では構造計算が必要となり、通常の設計費用と別に構造設計者への設計費用が発生する。(⇒構造計算は2階でもする方が安心です。)

・確認申請では構造計算の審査に時間がかかる場合が多い。

・防火規定の規定が厳しくなるため、材料の選択肢が少なくなり、工事費も多少アップする。

・工事期間が長くかかる場合がある。

(補足)
3階建てでは木造以外にも鉄骨造を視野に入れても良いですね。コストは基本的には木造とさほど変わりません。(多少のアップ)

特に、防火地域では3階建てとなると耐火建築物としなければならないため、木造では耐火建築物とすることが困難になります。

耐火建築物とするには、鉄骨造であれば鉄骨に耐火被覆をすることで可能となります。

また、鉄筋コンクリート造(RC造)であれば耐火被覆は必要ありませんが、RCとすること自体、コストが高くなります。

 

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