はじめに
こんにちは。
一級建築士のtakumiです。
2階建てや3階建ての住宅の動線計画では、階段はとても重要なツールです。
生活する上で、水平移動に比べて垂直移動することは労力が要りますし、移動がめんどくさいものです。
そのため、階段の位置によって、生活動線、家事動線のスムーズさは、かなり変わってきます。
そして、階段の形状や勾配、幅も色んなパターンがありますから、幅や角度が違えば、使いやすさや安全性も大きく異なります。
近年では、「階を移動する道具」というだけでは面白くないため、階段をインテリアとしても楽しめるように、リビングの吹き抜けなどにスケルトンで設置するタイプ(スケルトン階段、スチール階段などと呼びます。)も多くなっています。
しかし、スケルトン階段というのも、どちらかと言うとデメリットの方が多いものですし、デザイン重視としてしまうことで、
「冷暖房の効率が悪い」、
「リビングの音が丸聞こえ」、
「スケルトン階段が落ちそうで恐い」
といった、デメリットも潜むものです。
また、2階建ての場合ですと、1階はLDK中心の共有スペース、2階は家族それぞれのプライベートスペースとなることが多いですね。
そのため、共有スペースとプライベートスペースの繋がり方を決めるのが階段となります。
階段の位置によって、家族のコミュニケーションの頻度が変わってくるということになります。
階段の計画では、 まずは安全性 、そして居住性、機能性を考えます。
あなたの家族の生活に合った、安全で使いやすい階段とするために、階段について詳しく知っておきましょう。
階段の形の種類や違い
まずは、階段の形の違いについて解説いたします。
階段の形は「この形がいい」といって決めるよりも、どちらかといえば間取りに応じてはまりやすい形とする方が良い間取りになります。
回り段の注意点
どのような形の階段でもスペースが限られているため、回り段の形になる可能性があります。
回り段の注意点は、中心部の踏面(ふみづら)が小さくなり、落下の危険性が高いということです。
下の写真を見ても、垂直に落下する危険があるのが分かりますね。
そのため、回り段の中心部には縦型手すりを設置するようにしてください。
回り段の集まりである「らせん階段」はもってのほかです。
らせん階段の中心部は、垂直落下に近い危険があります。
住宅でらせん階段を採用するのは絶対に避けてください。
直線階段
直線階段はその名の通り、一直線の階段です。上端や下端が周り段になることもあります。
メリットは「まっすぐ」なため、とてもシンプルで昇降しやすいことです。
デメリットとしては、足を踏み外した際に落下する距離が長くなってしまう危険があるということです。
途中にフラットな踊り場を設けられれば良いのですが、なかなかそんなスペースの余裕が無いものです。
折り返し階段
昇降の途中でUの字に折り返している形状の階段です。
メリットは、足を踏み外した際に、直線階段と違って落下の高さが半減することです。
階段スペースを設けやすいため、よく使われる階段の形です。
デメリットは、転回部分で回り段ができることが多いため、回り段の部分が危険となります。
回り段を無くす(踊り場を作る)こともできますが、それだけ階段スペースが大きくなってしまいます。
折れ階段
途中でL型に折れる階段です。
直線階段と折り返し階段の、中間的な特徴を持つことになります。
メリットは足を踏み外した際の落下の距離が短くなることと、折り返し階段と比べて昇降しやすいと言えます。
デメリットとしては、こちらも曲がる部分で回り段となる可能性があることです。
また、L型は少し特殊ですので、間取りを考える上で「スポッ」と収まりにくい形です。
無駄なスペースを少なくし、折り返し階段を納められるかどうかは設計者の腕の見せどころでしょう。
階段の寸法の決まりや注意点
階段の寸法の基準や決まりごとですね。
まず、階段の寸法は建築基準法で最低基準が定められていますので、その寸法は必ずクリアしなければいけません。
建築基準法では有効幅員は75cm以上(手すりの出っぱりは含まなくてよい)、蹴上の高さは23cm以下、踏面寸法は15cm以上となっています。
階段の幅の75cmというのは設計プランを91cmのグリッドで計画した時に、ギリギリとなる寸法です。(一般的には78cm幅となることが多い。)
この幅を大きくするためには、吹き抜けの中に設置する、階段のグリッドを100cmにするなど、ちょっとした工夫が必要です。
階段の幅は、普段の使い勝手もそうですが、引越しや大きな家具を購入した際にも影響します。
狭い階段では、家具によっては搬入の際に手すりを外したり、場合によってはレッカーなどで2階へ吊り上げることも必要になってきます。
解体することができない大きな家具がある場合は、必ず設計時に設計士に相談しておきましょう。
※グリッドや寸法については詳しくはこちらをご覧ください↓↓↓
蹴上、踏面の寸法は階段の勾配を決めます。
階段の勾配は緩いにこしたことはありませんので、蹴上寸法はできるだけ小さく、踏面寸法はできるだけ大きくしてもらいましょう。
建築基準法の最低基準ではとても急で、特に直線階段では恐いと感じるはずです。
勾配は可能な限り緩くして、45度(20cm×20cm)よりは緩くしてください。
補足ですが、建築基準法上、階段には必ず手すりが必要です。
手すりの設置は片側で良いので必ず付けるようにしてください。
建築家の作品でも、(なぜか)全く手すりのないものも見かけますが、法に合っていません(または撮影後に設置している)。
先程も申しましたが、回り段の中心部は踏面が小さく落下の危険性が高い部分ですので、縦の手すりを設置することが望ましいです。
また、階段の両側には壁か手すりなどの落下防止措置が必要です。これは当たり前の規定ですね。
スケルトン階段の注意点
スケルトン階段というのは、蹴込み板が無く、ささら桁という階段の外側にある構造部材も無くしている階段形状のことをを言います。
スケルトン階段のメリットは開放的でスタイリッシュなそのデザインです。
しかし、メリットはその見た目だけです。
あとはデメリットばかりです。
スケルトン階段は手すりも開放的なものが多く、基本的には隙間だらけですので、落下の危険性が高まります。
特に、小さなお子様がおられる場合は格子やアクリル板(せめてネットを貼るとか)といったもので、落下防止の措置が必ず必要です。
ちなみに、手すりや柵などの格子の間隔(隙間の寸法)は10cm以内とする考え方もあります。
これは一般的な乳幼児の頭のサイズより狭い寸法で、子供がすり抜けない寸法であることを指します。
ほかには、女性の場合は下からの目線も気になると思います。家の中だから気にしない方もおられるかもしれませんが、お客様が来られている際には気を使います。
また、壁で囲われていないため階段の下を通ることも考えられるため階段で頭を打つことがあります。
通常は階段下を収納にすることも多いのですが、スケルトンとする以上、物を置くことがしにくくなります。
階段の位置の違いによる影響
階段の位置は日常の家族の動線にとても影響します。
さらに避難の際にも重要ですね。
階段の位置はリビング内に設置するのが流行りとなっていますが、リビング階段のメリットやデメリットを理解して頂き、あなたの家族の生活スタイルに合わせて計画してください。
リビング階段のメリットとデメリット
リビング階段というのは、リビング内に階段を設けることを指します。
■リビング階段のメリット
リビング階段とした際のメリットとしては、家族は帰宅すると2階の自分の部屋に行くためには必ずリビングを通ることになります。
外出時も同様に、2階からリビングを通って玄関へ向かいます。
外出時や帰宅時にリビングを通ることになりますので、コミュニケーションが生まれやすく、お子様の教育上リビング階段とするパターンが多くなっています。
■リビング階段のデメリット
一方、デメリットとしては必ずリビングを通ることです。
お子様が友達を連れてきた際にはリビングを通りますので、リビング(LDK全て)が散らかっていると気になります。
また、お客様がリビングに来られている時は家族が帰宅した際、出掛ける際はお客様と顔を合わせなければならないので、ちょっと気まずい時もあります。
リビング階段とすると、リビングと2階の廊下までが一体の空間となってしまいますので、階段が吹抜けとなって冷暖房が効きにくいことがあげられます。
特に暖房時は、暖かい空気が上へ上がりますので効率が悪くなります。
音も同様です。リビングの音が2階に筒抜けになることや、2階の音がリビングから聞こえやすいことになります。
調理の匂いも同じですね。キッチンやダイニングの匂いも階段を通じて2階へ上がってしまいます。
冷暖房の効率と音や匂いの問題について、解決策としては、吹抜けとならないように、階段の上か下に戸を設けて階段室として区切ると、冷暖房の効率を上げることができます。
また、音が2階まで筒抜けになることも軽減できます。
この場合の注意点としては、仕切りの戸は段の直前に設けるのではなく、少し平場(踊り場)を作ることです。
戸を開けるとすぐ段では危険ですからね。
玄関近くの階段のメリットとデメリット
玄関ホールや廊下から2階への階段がある動線計画です。
昔の家の間取りは多くがこの形でした。家族は帰宅すると、リビングを通らずに2階へ直接上がることができます。
家族それぞれのプライバシーを重視できるプランです。
■玄関近くの階段のメリット
玄関近くにあるメリットはリビングに直接繋がっていないため、リビングの音が筒抜けになることは無く、2階の音もリビングには聞こえにくいことがあげられます。
また、1階のホールや廊下と2階の廊下が一体となっているため、通常は冷暖房をしない空間同士ですので冷暖房の効率には影響しません。
■玄関近くの階段のデメリット
デメリットは家族のコミュニケーションが減る可能性があることです。
玄関から直接2階の自分のスペースへ行くことができるため、家族と顔を合わせる機会は減ってしまうということですね。
階段の位置は2階の廊下の長さに影響する
1階の動線だけで階段の位置を決めてしまうと、2階の各部屋までの距離が長くなってしまうことがあります。
階段は、2階に昇った時に2階の中央付近にくる方が動線は短くて済みますね。
2階の廊下が長くなり過ぎないように、階段の位置や形状も考える必要があるんですね。
例えば、1階の端に階段を配置する場合、折り返し階段だと廊下の距離が長くなるため、中央へ向かって昇る直線階段にする、といった工夫も必要になります。
3階建ての場合の階段の位置
3階建てとなると、(建築基準法施行令第120条の規定により)「直通階段」の設置が必要となります。
直通階段というのは、3階から1階まで「連続」している階段です。
火災などの避難時に3階からでもすぐに屋外に避難することができるための規定です。
建築確認申請の審査では、「避難に関する規定」は不特定多数の人が利用する建物では厳しいものですが、家族しか使わない建物である戸建住宅の場合は、ある程度スムーズに避難ができれば良い、と扱われることもが多いものです。
3階⇒1階へ降りる際に、下の図のように、2階の部分で途切れていてリビングを介するようになっていても、よっぽど避難経路が分かりにくくなければOKとなることが多いです。
ただし、取り扱いは各行政庁や確認検査機関に確認が必要です。
※3階建の注意点はこちらをご覧ください↓↓↓
階段下の利用方法や注意点
階段下は使わなくてはもったいないスペースです。
多くは収納とすることが多いものですが、よくトイレとして活用している例もありますね。
階段下のスペースはできるだけ有効に使いたいものですが、トイレに使うに場合には天井高さに注意が必要です。
間取りによっては、天井高さが低いものも見かけますが、勾配天井の場合でも人が立つ場所は1.8mくらいは確保したいものです。
頭を打たない高さであっても、窮屈な印象のあるトイレにならないように注意しましょう。
特に、1階のトイレはお客様も使用することがありますから、配慮が必要ですね。
まとめ
階段の位置や勾配を決めるのは、住宅の設計ではとても重要な要素ですね。
寸法・勾配や形状は安全性を決定します。
また、位置は家族の動線を決定し、使いやすさだけでなく、家族のコミュニケーションにも大きく関わります。
吹抜けとなるプランでは、冷暖房の効率(省エネ)にも影響します。
毎日、昇り降りする階段ですから、スケルトン階段のようなデザイン性を重視することも良いのですが、
危険な階段
使いにくい階段
と、ならないように、安全性と、家族の動線や居住性、経済性を検討してみてください。
※noteでも家づくりに関する色んなコラムを書いていますので、またご覧くださいね⇒takumiのnote
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