注文住宅を鉄骨造で建てるメリットとデメリット~鉄骨造を知って木造と比較してみよう~

こんにちは。

一級建築士のtakumiです。

住宅には構造の違いがあり、木造の他にも「鉄骨造」で造るという手法もあります。

住宅の構造は木造が多数を占めますが、鉄骨造で建てるという選択肢も視野に入れて、構造や工法を検討してみる価値は十分にあります。

実は、鉄骨造は木造と比べても外見はほとんど違いがありません。

また、軽量鉄骨造と重量鉄骨造とでは特徴が異なりますが、重量鉄骨造では設計の自由度が高くなるメリットがあるのです。

お気に入りのハウスメーカーがある、木造と決めている場合などは別ですが、特にこだわりがない場合は、鉄骨造を選択肢に入れてみても良いですね。

それでは、鉄骨造について解説してまいります。

鉄骨にも種類がある

鉄骨造といっても大きく分けて、「軽量鉄骨」と「重量鉄骨」があります。

これらは鉄骨材の部材の厚みによって違いがあり、

・鉄骨の部材厚さが6mm未満の薄い材料が軽量鉄骨

・鉄骨の部材厚さが6mm以上の厚い材料が重量鉄骨

とされています。

この違いにより、それぞれの特徴も変わってきますので、メリットとデメリットを把握してあなたに合った工法を探してみましょう。

軽量鉄骨造の特徴

軽量鉄骨は、主にハウスメーカーのプレファブ工法です。

「型式認定」といった認定により決められたユニットの組み合わせであれば、設計の際に構造計算を行う手間が省かれるメリットがある工法です。

同じ鉄骨造でも、重量鉄骨とは違った特徴があります。

構造的には、どちらかと言うと木造在来工法に近いもので、柱や梁と鉄骨ブレースを組み立てる工法です。

軽量鉄骨造は肉厚が薄いので、軽くて加工しやすいため施工性がよいのが特徴です。

建物自体の重さも木造とそれほど違いはなく、基礎も木造の基礎と同程度の形状になります。

大手ハウスメーカーが多いため、コストは比較的高くなってしまう傾向がありますが、薄い鉄骨材であるため、本来は重量鉄骨よりも安く済むものです。

デメリットとしては、間取りの自由度が比較的限定的であることです。

間取りの作り方もユニットを組み合わせるため、決まった組み合わせの空間しか作れないことになります。

また、リフォームやリノベーションの際も同様で、構造的に間取りの変更に制約があり、自由に変更することが難しい構造です。

重量鉄骨造の特徴

重量鉄骨といえば、ビル建築のイメージですが、戸建て住宅なにおいても採用されています。

工務店やビルダーではほとんどが木造となりますが、設計事務所の設計の場合には、空間デザインやコンセプト、間取りによっては重量鉄骨造とすることがあります。

コスト的には、木造在来工法と比べると同程度~少し高くなることがあります。

重量鉄骨造のメリット

大スパンが可能なため広い空間が確保できる

鉄骨造の一番のメリットは鉄骨梁により、「大スパン」が可能となることです。

※スパンとは柱と柱の間の距離です。

木造在来工法では梁材の長さは通常5m程度までですが、鉄骨の梁は10m以上とすることも可能です。

そのため、広い空間をとりたい際には鉄骨造とすることや、木造でも部分的に鉄骨の梁を採用することもあります。

※原則、鉄骨の梁を入れると木造でも構造計算が必要となります。

間取り・建物の形の自由度が高い

重量鉄骨造は大きなスパンが可能であるため、柱の数が少なくて済みます。

そのため、間取りはかなり自由に作れるため、木造と同等以上に自由な間取りが可能となります。

また、間取りだけでなく、建物の形もかなり自由に設計することも可能です。

骨組みとなる構造材料が加工のしやすい鉄であるため、屋根を丸くしたり、床を張り出したりと、様々なことが可能となります。

現場での施工性が良く品質が均一

鉄骨造で品質に差が出てしまう工程に、「溶接」があります。

重量鉄骨造では、H型鋼(切口の断面がH型の鋼材)や角形鋼管(切口の断面が正方形の鋼材)、板状の鋼材を溶接して構造材として成形します。

これらを人間が行うと品質がバラバラになりやすいものです。

特に、溶接は高度な技術力を要するもので、職人によって差が出てしまい、溶接が良くないと構造上の大きな欠陥となってしまいます。

そのため、通常の鉄骨造では現場では溶接をせず、鉄骨工場で機械溶接によって均一な品質を保つようにしているのです。

多くの部材を工場でしっかりと溶接し、超音波検査で溶接の欠陥が無いことを確かめてから現場へ出荷しています。

そして現場では、工場で溶接された鉄骨のピースを職人さんが組み立て、高力ボルトで固定します。

高力ボルトでの接合は人によってもそれほど差の出るものではないため、鉄骨造は品質が確保しやすい工法といえます。

工期が比較的短く済む

前述の通り、鉄骨造は工場生産する部分が多く、構造体の部分はある程度の形にして現場へ出荷します。

そのため、現場での作業効率が良いことと、工場で生産する工程は天候に左右されないため、工期的にも有利となります。

※鉄骨は工場の制作に時間がかかりますので、鉄骨工場の混み具合により、想定より時間を要することがあります。

木造と比べて構造計算の信頼性が高い

木造というのは、木材の強度にバラツキがあります。

大きな節があったり、材齢によって硬さも違います。

その点、木材と比べて鉄骨は強度が統一されており、品質の差が少ないため、構造計算の信頼性が高くなります。

火災保険が安くなる

火災保険の分類上、一般的な木造はH構造(非耐火構造)ですが、重量鉄骨造や軽量鉄骨造もT構造(耐火構造)となります。

そのため、鉄骨造は木造に比べると火災保険が安くなります。

※注意が必要なのは、火災保険は木造よりも安くなりますが、鉄骨造が火災に対して特別強いというものではなく、火災になると高温で一気に強度が落ち、倒壊してしまう恐れがあります。

耐用年数が長くなる

あくまでも税制上ですが、鉄骨造は耐用年数が木造よりも長くなります。

税制上の耐用年数
・鉄骨造(厚み3mm以下)  19年
・鉄骨造
(厚み3mm超え4mm以下)  27年
・鉄骨造(厚み4mm超え)    34年
・木造            22年
・鉄筋コンクリート造        47年
※税制上は鉄骨の厚みの区分が建築上のものと異なるため注意
⇒減価償却資産の耐用年数(国税庁ホームページ)

資産価値としては3mmを超える鉄骨は木造よりも耐用年数が長いとされており、逆に3mm以下の鉄骨は木造よりも耐用年数が短いとされています。

しかし、これはあくまでも税制上、資産価値を算出するための目安であり、実際は施工性や周囲の環境に左右されるものです。

きちんと施工すれば、通常はもっと長く使用できます

重量鉄骨造のデメリット

鉄は錆びやすく酸化してもろくなる

鉄は酸化により錆やすく、表面だけの錆なら問題はありませんが、錆が酷くなると強度が落ち、耐力が無くなっていきます。

鉄骨材は錆止め塗装を施しますが、海沿いや潮風が吹く地域では一般的な錆止め塗装ではすぐに錆びてボロボロになってしまいます。

そのため、塩害が予想される地域では潮風を考慮し、強力な錆止め塗装、塗り回数を増やす、特殊な塗装をするといった、塩害対策の塗装仕様が必要となります。

鉄は熱に弱い

鉄自体は熱に弱く火災で高温となると耐力が急激に低下し崩壊する恐れがあるため、耐火構造とするためには耐火被覆が必要です。

建築基準法では3階建てでも通常の地域であれば「準耐火建築物」で足りるため、耐火被覆をしなくても必要な耐火性能を確保することができます。

防火地域で3階建て以上または100㎡を超える床面積の場合は、建物を「耐火建築物」とする必要があります。

耐火建築物は、柱や梁といった構造上重要な部位には耐火被覆をしなければ法に適合しません。

※住宅の防火性能についてはこちらもご覧ください↓↓↓

鉄骨は熱伝導率が大きい

鉄骨は熱伝導率(熱の伝わりやすさで、大きいほど断熱には不利)が大きいため、外壁の中で結露がおきやすいことになります。

また、「ヒートブリッジ」といって、熱伝導率の高い鉄骨を通じて外部の熱が内部に伝達されてしまうため、断熱効果が薄れてしまうこともデメリットとなります。

⇒これらを防ぐために、外断熱といって鉄骨材の外側にある外壁面で断熱することが効果的であるといえます。

部屋内に柱の形が出てくる

軽量鉄骨であれば木造在来工法と同様に、柱は壁の中に隠れてしまいますが、重量鉄骨の場合は壁の厚さよりも柱や梁の断面の方が大きくなるため、柱や梁の形が見えてきてしまいます。

柱の形が出てくることはデザイン上もスッキリしないこともありますが、家具や電化製品を置く際に邪魔になるというデメリットがあります。

まとめ

鉄骨造には軽量鉄骨と重量鉄骨があり、それぞれに特徴がありますが、施主にとってのメリットは、実は重量鉄骨の方が多く、軽量鉄骨は施主側にはそれほどメリットは感じられません。

重量鉄骨を採用する場合には、対応可能な設計事務所や工務店を探し依頼する必要がありますが、設計の自由度から採用するメリットはあります。

構造の工法を迷っている場合は重量鉄骨も視野に入れて、それぞれの工法のメリットとデメリットをきちんと理解し、計画を進めていきましょう。

※構造の比較はこちらもご覧下さい↓↓↓

住宅の構造・工法の違いと特徴について(木造・鉄骨造・RC造の比較)

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