はじめに
こんにちは
建築コンサルタントのtakumiです。
今回は、住宅を計画する際に、「最も気にして頂きたい」
建物の耐震性のお話です。
そもそも耐震とは何かと言いますと、字のごとく「地震に」「耐える」ことを言いますが、いったいどのようなものなのか、どのような基準になっているのかを、施主さんもある程度把握しておいて頂きたいと思います。
地震に対抗する構造には大きく分けて「耐震構造」「制震構造」「免震構造」の3つの構造があります。
一般的に住宅の多くは耐震構造ですが、ハウスメーカーや工務店によっては、制震構造や免震構造を採用できる業者もありますね。
制震構造や免震構造というのは、優れた構造ではありますが、コストが高くなってしまうデメリットがあります。
特に、免震構造を取り入れると数百万円のコストアップが生じますので、費用対効果を考える必要があります。
それでは、耐震構造についてみていきましょう。
耐震構造とは
耐震構造は地震の揺れに対して、「耐える」構造です。
地震の揺れは、地盤の揺れが基礎に伝わり上部の構造に伝達されます。
その水平力に対して建物の持つ「強さ」と「粘り」で耐える構造です。
具体的には、木造では耐力壁と呼ばれる「筋交い(柱間に取り付ける斜めの材料)」や「構造用合板」などを、柱と柱の間に取り付けて、柱の変形を防ぎます。
住宅などの低層の建物は基本的には建物をガッチリ固めて強さ・硬さで対抗する「剛構造」としますが、中高層では地震動に対してある程度揺れることで柳のようにしなやかさで対抗する「柔構造」とします。
制震構造や免震構造とは
まず制震構造ですが、「制する」とあるように地震のエネルギーを吸収するイメージです。
具体的にはダンパーと言われる減衰材を用いて、設置したダンパー部において地震動を吸収することによって建物全体に地震力を伝達させないものです。
免震構造は揺れを「免れる」というように、地盤と同じように揺れないように基礎等の部分で絶縁してしまい、上部構造に大きなエネルギーが伝達されないようにする構造です。
具体的には「アイソレーター」という装置を設置し、鉛直方向で建物を支持し、水平方向には柔軟に変位ができることにより、大きく揺れを低減することになります。
地震の加速度ガル(gal)とは
ガル(gal)というのは地震の大きさを表現する単位のひとつで、地震の加速度を表します。
地震動の速度変化を示すもので、地上で物体が自由落下した時の加速度(重力加速度:980gal)が1Gとなります。
震度が地震の揺れの大きさを表現するのに用い、マグニチュードが地震のエネルギーの大きさ(地震の規模)を表現しますが、このガルは「加速度」を表します。
実際に過去の災害においても、阪神淡路大震災では約900ガル、東日本大震災では最大2933ガル、関東大震災が300〜400ガルであったの対して、新潟県中越沖地震では2000ガル、2008年に発生した岩手・宮城内陸地震では4022ガルが計測されています。
物理の古典力学を勉強された方はわかると思いますが、外力が加わった際に物体は自分の重さ×加速度の力を受けます。
阪神大震災の900ガルでは重力加速度と同じくらいの加速度が水平力としてかかる訳ですから、立ってはいられませんよね。
その約4倍の岩手・宮城内陸地震での4022ガルというのは加速度としてはとてつもない大きさなんですね。
このガルの値が大きいほど揺れが激しいことを示しますが、建物など構造物は地震の周期や継続時間に影響を受けますので、震度や被害の大きさには直結はしないものです。
建築基準法の耐震基準
建物は住宅や他の建物も全て建築基準法の規制を受けます。
建物の構造の基準には、
決まり事である「仕様規定」 や、
細かく計算をする「構造計算」
がありますが、一般的な木造住宅の多くは構造計算ではなく、簡易な計算で耐力壁の数量や接合金物の耐力をチェックすることになります。
建築基準法が想定している地震の大きさ
建築基準法は必ず守るべき基準であり、最低基準となっています。
建築基準法の考え方としては中地震に対するものと大地震に対する2パターンあり、それぞれ以下のように考えられていますので、建築基準法を満足する構造は以下の状態であると言えます。
■中地震の発生に対して
中地震とは稀に発生する地震(数十年に一度程度)で、震度5弱程度(80~100ガル程度)を想定しています。
建物の応答加速度(実際に建物にかかる加速度)としては低層では約2倍の200ガルとなります。
この地震に対して、仕上げ材等の損傷はあるが構造体にはほとんど損傷がない状態であることが基準となりますので、地震のあとも建物は使えますが、修理が必要となることがあります。
■大地震の発生に対して
大地震とは極めて稀に発生する地震(数百年に一度程度)で、震度6強(400~500ガル程度)を想定しており、建物の応答加速度としては低層では約2倍の1000ガル程度となります。
この地震に対して、構造体を壊しながら地震力を吸収し、建物の倒壊を防ぐことが基準となりますので、あくまでも人名を守ることを目的とし、建物が破壊されても中に住む人は無事であることを想定しています。
近年では、「極めて稀」とされる震度6強以上の地震が発生しています。
しかも地震には余震や本震がさらに来ることがありますので、建築基準法での最低基準では不足する事態も考える必要がありますね。
木造在来工法の構造基準
木造の住宅では2階建てまでであれば一般的には構造計算をせずに、簡易な計算により安全性を確認することとなっています。
いわゆる4号建築物というものです。
※4号建築物については詳しくはこちをご覧下さい↓↓↓
以下が木造の住宅でも構造計算が必要な規模となります。どれにも該当しなければ構造計算ではなく簡易な計算方法で良いことになります。
・延べ面積が500㎡を超える
・軒の高さが9mを超える
・建物の高さが13mを超える
これらに該当しないものは、「壁量計算」と「バランスチェック」という計算により安全性を確認します。
壁量計算
壁量計算とは、各階のX方向とY方向それぞれの必要な耐力壁の量を算出し、それ以上の耐力壁を配置するものです。
必要壁量≦存在壁量の合計
必要な壁量は各階の床面積に階や屋根の重さにより変わる係数を掛け算出します。
存在壁量は、配置した耐力量の合計です。
耐力壁はその種類によって倍率が決められており、例えば45×90の筋交いをシングルで配置するとその水平長さの2倍、たすき掛けとすると倍の4倍となります。
ただし、倍率の大きい耐力壁を配置すると、それだけ柱には強い引張力がかかりますので、柱の接合部には倍率に応じた耐力の金物が必要となってきます。
バランスチェック
各階が必要な壁量を満たせば、次に耐力壁のバランスチェックをします。
バランスチェックとは四分割法とも言われ、建物の外周部(平面的に建物の1/4の外周部)の「壁量充足率」が均等であるかどうかをチェックするものです。
また、このバランスチェックが仮にアウトとなっても、構造計算でも行う「偏心率」という(重心と剛心のズレの具合をチェックする)ものを計算して規定値内であれば適合することになります。
どれだけ耐力壁をたくさん配置しても、偏った配置では建物にひねりが生じてしまい、建物全体で地震に耐えることなく弱い部分が先に破壊されてしまいます。
耐力壁は外周部を中心にバランスよく配置しなければならないということなんですね。
壁量計算はどこまで精密なのか?
ここで気になることがありませんか?
構造計算をせずに、壁量計算等で安全性を確認した建物は、構造計算をしたものと比較をして、劣っているのかどうか?ということです。
結論は、実は、構造計算してみないとわからないというのが本当のところです。
中には構造計算をするとアウトとなる計画もあります。
壁量計算や仕様規定には、「梁」や「床」に関する項目が無いのですが、水平方向の地震力は梁や床を通じて伝達されます。
そのため、壁倍率だけを大きくし、全体の存在壁量をむやみに大きくしたところで、検討していない梁やその接合部が持たず、耐力壁よりも先に破壊されてしまう恐れがあります。
そうなると余分に存在壁量を大きくした意味がないことになります。
また、建物が不整形であることや大きな吹き抜けが存在する、1階に駐車場等のピロティがあると構造上の弱点となります。
壁量計算やバランスチェックではこのような構造上の弱点を計算に反映することはできないため、適宜補強を入れる必要があり、場合によっては構造計算して安全性を確かめる必要があります。
住宅性能評価の耐震等級
住宅性能評価は2000年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)の制度で、住宅の品質や性能を等級で表示し、建物の性能を評価書という形で示すものです。
※品確法の性能評価の制度について詳しくはこちをご覧下さい↓↓↓
品確法では、等級が1~3まであり、耐震等級2や3では壁量の他、接合部や梁、床組などについて建築基準法と比べてより詳細に検討します。
壁量では建築基準法で考慮しない準耐力壁という雑壁も評価し算入できます。
耐震等級は3通りあり、以下のようになっています。
・耐震等級2···建築基準法の1.25倍
・耐震等級3···建築基準法の1.5倍
さきほども申しましたように、耐震壁をむやみに増やしただけでは他の部位が先に壊れてしまいますので、地震力を伝達する梁や床といった部位についても壁量に見合った耐力となるよう設計する必要があります。
性能評価制度を利用して評価書を発行するには確認申請とは別に手続きが必要で、手数料や手間として、木造戸建て住宅の場合では、30万~40万円程度の費用がかかります。
性能評価制度を利用する場合、耐震等級1では意味がありませんので耐震等級2か3を取得してください。
できれば耐震等級3を取得するに越したことはありませんが、耐震性を高めるためには間取りや建物の形、窓の数や大きさにも制約が出てくるため、自由な設計ができない可能性もあります。
ちなみに、地震保険は耐震等級によって割引率が異なり、耐震等級1では10%、耐震等級2では30%、耐震等級3では50%の割引となります。
例えば、年間3.5万円の地震保険の場合、耐震等級3では20年間で20年×1.75万円=35万円も安くなります。
耐力壁の直下率は意味が無い!
さて、今度は耐力壁の直下率という言葉です。
直下率というのは、2階建てであれば2階の耐力壁のすぐ下の1階にも耐力壁がある、上下で連続した耐力壁の割合です。
これが、「50%や60%なければ」、とか言うブログ記事を見かけますよね。
実は、耐力壁の直下率というのは何%あれば良いというような考えはありません。
熊本地震の後に、「直下率」がやたらとクローズアップされましたが、実は倒壊する建物は直下率が原因ではなく、施工制度や各階の耐力壁のバランスの悪さにあります。
直下率が低くても、高い耐震性は確保できますし、耐震等級3も確保できます。
地震などの外力に対して、筋違いや構造用合板といった耐力壁は、「変形しない」ために踏ん張ります。この踏ん張った力はどこへ伝達されるかというと、「梁」なんですね。
梁を通じて力が伝達され、同じ通りの壁全体で水平の力に対抗するわけです。
2階の水平力は梁を通じて耐力壁で対抗し、1階へは「柱」の軸力として伝えられるのですね。
ですので、上下に耐力壁があっても、連動して強くなる訳では無いんですね。
ただし、柱の直下率というのは耐震性と関連はしてきます。これも直下率というよりは、耐震上重要な柱は1階と2階で連続していないといけないということです。
基本的には「隅柱」ですね。
建築基準法でも、隅柱は「通し柱」として連続性が必要とされています。
そのため、下の図のような間取りは、2階の外壁面の「直下に柱が無い」ため、あまり良くないということになります。
耐震性を発揮するには地盤が肝心
耐震性をいくら高めても、軟弱な地盤では倒壊してしまう可能性が高まります。
大きく盛土された地耐力の低い地盤では地震の揺れが増幅され大きくなり、実際の震度以上の被害が生じることがあるんですね。
また、埋立地の多くは液状化現象が起こりやすく、地震動により一瞬で耐力のない地盤と化してしまい、建物の耐震性には問題がなくても全壊となるケースがあります。
建物の耐震性を高めることは大切なことであり、間取りや他の仕様とのコストのバランスを図りながらできるだけ高い耐震性を確保する事が望ましいのですが、
それを支える地盤が悪くては全く意味がありません。
地盤が悪い場合は、当然、地盤改良や杭を施工することが必要ですが、現在、土地を探している最中である場合には、必ず地盤が硬い場所を選ぶようにしてください。
※地盤の安全性については詳しくはこちをご覧下さい↓↓↓
耐震設計だけでなくミスの無い丁寧な工事が大切
必要な耐震性能を確保するには計画した設計通りの工事をする必要があります。
いくら図面や計算書で高い耐震性を得られても、実際の工事でその仕様通りに施工されないと意味がありませんよね?
例えば、耐力壁である筋交いや構造用合板は取付ける仕様が決まっています。筋交いの金物の取り付け方や構造用合板を留めつける釘の間隔など、構造に関する工事が全て適切になされてはじめて耐震性能を発揮します。
先に述べました品確法の性能評価では現場検査がありますので、一定の施工の正確性も測れることになります。
しかし、全ての箇所をこと細かく検査するものではないため、やはり工事監理者のチェック機能が重要であるといえますね。
※工事監理について詳しくはこちをご覧下さい↓↓↓
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